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あんぐるぐる顛末記


 あれは小学校3年の頃だったかな、河で溺れたことがある。
 タイコウチという水生昆虫を逃してしまい、それを追いかけ深みにはまった。

 一級河川で水量も多く、つま先が立つか立たないかという深さを流されて行った。水面ごしに、呆然と立ちすくむ友人の姿が見え隠れした。

 「この機会を利用して泳ぐことを覚えてやろう」とも考えたが、どうしようもなく、立った姿勢のまま流された。
 
 大きな石が片足に引っかかり、体が止まった。必死でその体制を保とうとした。水面から顔が出たり入ったりしている。

 そのときかな、明日の朝刊の三面を想像した。

 「小学生、○○川で水死!!」

 リアルな新聞紙の記事が、派手なタイトルとともに、はっきりと映像で頭に浮かんだ。

 石をおれの足が捉えていたのもほんのつかの間で、また流されて行った。

 水面を通して、両手を広げるひとの影がゆらいで見えた瞬間、おれは抱き上げられていた。

 大人、いまのおれから見れば「眼鏡を掛けた中年男性」が、おれを河原に下ろした。男は日焼けした顔でわらっていた。そばには男の子が立っていた。

 おれは声を出してわらい始めた。ただひたすらわらい、暫くすると、男に礼を言わぬまま、友達のもとに向かった。
 長い距離を流されたように感じていたのだが、じっさいはほんの僅かな距離だった。


*


 いま溺れると大変なことになる。
 
 まず、大人たちに、河原から石を投げられる。目を吊り上げた大人や、能面のように無表情な大人が石を投げながら、口ぐちに叫んでいる。

 「なんで川に入ったんだ!!」

 「立ち入り禁止と書いてあるだろうが!!」

 ようやく水面に出した顔をめがけ、石が降ってくる。

 「おまえの親は、どういう教育をしたんだ!!」

 「親はあやまれ!!」

 川底の大きな石に子供の足が引っ掛かる。

 「おい、ちょっと待て。溺れかたが怪しいぞ」

 「怪しいな。やらせだな」

 「やらせだ!! やらせだ!!」

 石を投げながら呟いているものもいる。

 「助かって欲しいいんだが」

 「無事救出を祈っています」

 事情を飲み込めていないのだが、みなが石を投げるので一緒になって投げる者まで現れる。

 「う~ん、いま子供の足が何かに引っ掛かってるみたいですね。何ですかね。大体一級河川の川底には石のほかに自転車などの不法廃棄物が沈んでおり、年間・・・・」 解説している者もいる。

 石から足がはなれ、どんどん子供は流されていく。そのこどもを大人たちは河原を走り、必死で追いかける。中には河原を転げ落ちるものもいる。走りながら石を投げたり、叫んだりしている。

 河原から転げ落ちた者がカンカンに怒り、叫ぶ。「おまえはおれたちにどれだけ迷惑を掛けてるんだ!!」

 「そうだそうだ。迷惑かけすぎ!!」

 「自分から川に入ったのだから、自分で責任を取りなさい!!」

 「そうだそうだ!! 自己責任だ!!」

 「自己責任だ!!」

 子供の顔に石が当たる。

 「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」


*


 子供はようやくひとりの男に抱き上げられる。男はわらっている。

 子供に石を投げ付けていた連中が河原に降りてきて、口ぐちに叫ぶ。

 「おれたちのおかげだぞ!!」

 「そうだそうだ!!」

 「礼を言え! 礼を!!」

 子供は放心状態で何がなんだかわからない。

 「なんで川に入ったんだ!! 説明しろ!!」

 「危ないと、わかかってて、なぜ近づいた!!」

 「はやく説明しろ。おまえにはその義務がある」

 子供は顔面が蒼白になり、がたがた震え俯いている。大人たちは子供を取りかこみ口ぐちに叫ぶ。

 「おれたちに弁償しろ!! 救出費用を返せ!!」

 「そうだそうだ!! 金を出せ!! 自己責任だ!!」

 「このひとなんか、おまえのためにどれだけ苦労したか」転げ落ちた男を指差し叫んでいる者もいる。

 「自己責任!! 自己責任!! 金を出せ!!」


「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「はやく説明を」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「救出費用を返せ」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」 「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「この子なんとなくムカつくんだよね」「自己責任!!」「自己責任!!」「おもしろいね」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」「自己責任!!」



 ようやく両親が駆けつけ、大人たちに謝りながら、わが家へと泣きじゃくる子供を連れ帰る。
 大人たちは、叫び続ける者、家族についていく者、自分の家に帰る者などに別れていく。

 ひとりの大人が、子供を助けた男のほうを振り返る。

 「おい。こいつの笑顔、おかしいぞ。なにかたくらんでるぞ」


*


 あのう、おもしろいことを書くなあ、とお思いの、日本以外の外国に住んでいるみなさん。これおもしろいことでもなんでもなく、ただ事実を記しただけなんですよ。だから来日されるさい、またひさしぶりに帰国されるさいは、ぜひ泳ぎかたを覚えておいてくださいね。

 助けられたら「超ラッキー」。ふつうは石を投げられ沈められてしまいます。




えっ、そんな馬鹿な? 信じない?



う~~ん。



じゃあ、石を投げた大人を連れて来ますね。












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「北海道に行ったらシャケを食わされた、って言うようなもんだと思うんですよネ」。イラクといえばテロの本場、しかも毎日のように人が殺されている危険極まりない所。ジャーナリストもボランティアも、それは承知でイラクに行っているはず、と厳しい現実を語る家元。「こんなこと言うと、みんなどう思うのかわかりませんけどネ。そうそう、こういう回文がありますヨ、『イラクイラン、元来暗い』──」。(04.04.13)

立川談志 STREAM CONTENTS より





このテキストに限り、無断転用、無断引用歓迎。作者。




 
by bravo650 | 2004-04-20 19:24 | イラク問題
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